犬の帰宅

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「森のテグー」と「ハナコ@ラバトリー」〜非日常の中の日常と日常の中の非日常みたいな〜

森のテグー 2 (ヤングチャンピオンコミックス)

森のテグー 2 (ヤングチャンピオンコミックス)

ハナコ@ラバトリー(1)(CRコミックス)

ハナコ@ラバトリー(1)(CRコミックス)

施川ユウキ先生の「森のテグー」の2巻、作画に秋★枝先生を迎えた「ハナコ@ラバトリー」1巻が発売されました。
とある森の中で家族や友達と暮らす子猫の少年テグーの物語と、iPhone片手にあらゆるトイレを渡り歩き、様々な人と出会う幽霊の少女ハナコの物語。どちらもちょっと不思議な風合いを持ちながらも、軽いシニカルさと少しの切なさとしょうもなさ、そして出来事を切り取る絶妙なセンスに溢れた良作です。


・非日常の中の日常/森のテグー

「森のテグー」はテグーの暮らす森の日常を舞台としており、常識や普段見慣れているものといった「日常」に対してツッコんだり驚いたり、茶化したり感動したりするお話。施川先生がこれまでに書かれてきた「サナギさん」「12月生まれの少年」と同傾向にある作品と言えます。
ただ、この作品がこれまでと大きく違うのが、所謂我々が暮らす現実とは離れた、いわばファンタジーな世界が舞台であるということ。テグーの森は人と二本足で生活する動物が共存し、妖精やら巨獣やらが跋扈する世界。以前までの作品が僕らの日常でのあるあるネタが主であったのに対し、世界観からしてイマジネーションが溢れまくり。
とはいえ、テグー達がひたすらその「日常」に目を向けている姿はこれまでの作品と同じノリであり、その辺はまったく問題なく読むことが出来ます。ふとした思いつきや、自身や周囲の子どもらしさ・大人っぽさに対するとめどない考え、果ては「自分探し」の答えまでに及ぶその発想はまさに施川先生の真骨頂。
これまでの作品においても少年(話によっては少女や犬の目線だけど)時代の日常を描いてきた施川先生ですが、最後に「成長」という要素が出てくることが、それまでの作品とはちょっと違うところかもしれません。というのも、物語終盤にテグーは「世界の広さ」というものを実感します。
施川先生のこれまでの作品は、日常の生活の中で完結していることが多く、特に「サナギさん」においては「同じような日々が淡々と続く」ような終わらない日常というものを狙って書いていたことが窺えます。無論、それは終わることが前提としてあるお話であるのだけど。
テグーはそこから半歩進み、自分の周りに知らない世界があるということを知る。物語はそこで終わるけれども、きっとテグーは知らない町に冒険に行き、きっといつかその距離すらも「日常」へと変えていくことは想像出来ます。
子供の時には物凄い遠くに感じていた場所が、大人になってみると意外と何でもなかったりするということは誰しも経験があると思いますが、大人になってから感じるそんなノスタルジーを、とても上手い感じに描いている作品です。完結はちょっと惜しいけれど、全2巻とキリが良いので是非。


・日常の中の非日常/ハナコ@ラバトリー

主人公のハナコさんは、学校や公園、はたまた電信柱といったあらゆる「トイレ」にしか存在することが出来ない幽霊。iPhoneでブログを綴ることが趣味の彼女が、出会う人々とくっちゃべっては悩みを解決したりしなかったり。
施川先生が初めて原作に回り、作画に秋★枝先生を迎えた「ハナコ@ラバトリー」はそのナイスな組み合わせが評判になりましたが、読んでみると両先生の長所がイイ感じに噛みあってやはりナイス!なのですが、今までの施川先生の作品とは少々色合いが異なるように感じます。
共作の過程はちょっと分かりませんが(施川先生がネームを書いて、それを作画に起こしているようですが)、秋★枝先生の作画は施川先生のノリやテンポをとても上手い具合に踏襲していて、最初に読んだ時はその点に結構ビックリしました。単行本のカバーを外すと施川先生バージョンのハナコさんが出てくるのですが、読んでいく中で、普段の絵柄の展開も思い起こせるほど。秋★枝先生らしい可愛らしい絵柄と描きこみにも関わらず、ダジャレやツッコミの応酬はまさにいつもの感じ。にも関わらず、やっぱりいつもと違うような。
個人的に「森のテグー」と続けて読んだので、面白いのだけれど、なんとも落ち着かない気分を覚えて考えた結果

これは「非日常」を描いた話だ

と思ったわけです。個人的にね。

これまでの施川先生の作品は、先ほども書いたように「日常」を舞台にすることが多く、その中でなんやかんやとやり取りをする形式がメインでありました。しかし、ハナコさんが出会う人々や幽霊は、その時その場限りでしか出会うことは無い。それに、そのトイレを使う人々にとってその世界はいつもの世界であり、その中では突如現れる幽霊である彼女は非日常の(にしては大して驚かれないけどw)存在です。施川先生の作品にはしばしば1話〜数話しか出てこないキャラクターがいるですが、今回はそんな彼らの視点に近いところに主眼が置かれてるのかな、と思ったり。
また、ハナコさん自身も決して安定した存在ではありません。作中には何人か他の「幽霊」が出てくるのですが、彼らは基本的にみな「成仏」する存在です。「成仏できないと自分に何が起こったのか忘れてしまう」と作中にあるのですが、まさにハナコさんはそんな存在。作中曰く『夢遊病者』のようにトイレに囚われている理由も分からず、心残りがあって成仏出来ない幽霊の話を聞くも、彼女自身に果たしてそんな理由があるのかどうか、今のところ知る由もありません。
「幽霊は成仏するのが一番いい」と言っている通り、ハナコさんも何時の日か自分が死んだ理由を知り、成仏するのかも知れない。彼女が過ごす日常(?)は思った以上に脆い。そんな所に、いつもの作品とちょっと違くね?的な違和感を覚えたのかもと考えています。
とはいえ、『車窓から景色を眺めているだけでも、充分に旅は楽しめる』と言っているように、ハナコさん自体は至って楽しげ。何かに出会ったり巻き込まれ、それをブログに綴っていく彼女にとっては、ある意味で旅の連続のように感じているのかも知れません。旅に終点があるように、ハナコさんが何時成仏するのかは定かではないけれど、その時が来るまでは、この物語を、意外とクールな彼女の会話やブログを、まだまだ眺めていたいなぁと思うのです。
とまぁ色々書いては見たけど、施川先生がストーリー作成に集中出来るようになったためか、今まで以上にイマジネーションが爆発気味なのでその辺りに当てられたのかなーという気もします。それこそ「テグー」と比べるとギャグは少々抑えめで、切なさ・不気味さも含めて色んな要素が織り混ざっているのは、今まではそこまで表に出てこなかった側面として、積極的に見ていくのが一番なのかなと思ったり。そう言えば、普段は4コマ〜1ページを繋げて話を作っていくことが多いけれど、今回みたく1話10数ページでストーリーを作っていくのって、意外と無かった気がします。
そんな所でも、今後の展開が気になる作品です。