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恥知らずのパープルヘイズ感想〜過去に囚われた男の「勇気」と「覚悟」〜

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

恥知らずのパープルヘイズ ?ジョジョの奇妙な冒険より?

ジョジョの奇妙な冒険第5部―黄金の風」におけるラストバトルから半年後。かつてブチャラティ率いるギャングチームの一員でありながらも、チームが彼らのボスを裏切るに際し、袂を分かった男=パンナコッタ・フーゴ。多くの仲間の犠牲を払いながらも彼らがボスを倒したことから一転、「裏切り者」としての苦しみに苛まれていた。そんな彼は新たに生まれ変わった“組織”に対して改めて忠誠を誓う資格を得るため、旧“組織”の負の遺産、「麻薬チーム」の殺害を命じられる。否応なく自らの「過去」と「未来」に対して決着をつけることを余儀なくされたフーゴの死闘の行方は…。


ジョジョの奇妙な冒険」ノベライズ企画「VS JOJO」第1弾として、上遠野耕平による「恥知らずのパープルヘイズ」が刊行されました。ジョジョの奇妙な冒険第5部のメンバーとして登場しながらも、途中退場という憂き目に遭ってしまったキャラクター=パンナコッタ・フーゴのその後を描く!ということで宣伝されていた作品ですが、まさしく「その後」が気になるジョジョファンには必携の作品です。逆に言うと、ジョジョを読んだことのない人には、ぶっちゃけ勧められない作品であります。

一応ネタバレはギリギリ控えながらも、レビューつーか感想をば。



・運命に囚われた追跡者
この物語は先にも書いたように、「裏切り者」であるフーゴが旧“パッショーネ”の麻薬チームの殺害を命じられることから始まりますが、物語はフーゴを含め組織の中で「ケツに火が点いている」立場の3人による麻薬チームの追跡&スタンドバトルと、フーゴの回想によって成り立っています。


ブチャラティたちチームのメンバーはいずれも本編において、彼らが“組織”に入らざるを得なかった背景が描かれています。自らの身を守るためであったり、犯してしまった過ちが切っ掛けであったり、はたまた麻薬を流すギャングを消し去り「ギャングスターになる」ためであったり…。その中でもフーゴの背景は「教師に対する暴行を切っ掛けに落ちる所まで落ちて」とかなり簡略な説明しかされていませんでしたが、今回の小説においては、そこを上手く利用し、新たに語られるフーゴの過去を創り上げているのがベネ。


また、フーゴは本編において「こいつにスパゲティを食わしてやりたいんですが、かまいませんね!」の名言にもある通り、チームの一員であるナランチャ・ギルガを仲間に引き入れる切っ掛けを作っています。後にリーダーであるブチャラティがボスを裏切る際に取った2人の異なる行動…。この出来事は小説の中で通奏低音の如く思い起こされ、フーゴの心の中に大きな影を落としています。


イントロダクションにおいて「これは、一歩を踏み出すことが出来ない者たちの物語」と書かれている通り、フーゴはこうした過去に縛られています。ブチャラティを裏切った、いや、「彼らについて行かなかった」ことは裏切りと言えるのか、そもそも自分はあの時どうしたかったのか?こうした想いを抱えながら、麻薬チームとの死闘を繰り広げていきます。この葛藤を如何に乗り越えるのか?ということは、今作の大きなテーマとして描かれています。


ナランチャとのエピソードは勿論、他のキャラクターとどのような話があったのか、フーゴは何を見て、考えていたのか。原作を補完するという意味においてニヤニヤしてしまうのと同時に、フーゴというキャラクターの持つ悲しさというものが否応なく浮き上がってくる仕掛けとなっています。同じチームではあったが、強い絆で結ばれていたかと言えば微妙な関係であり、より深く分かり合うことなく闘いの中で散ってしまった仲間たち。かつての仲間たちの回想は、最後に同じ時を過ごした=運命の分かれ道となった瞬間へと直結していき、更にフーゴを自問自答の渦へと巻き込んでいくのです。



・生命の像(ヴィジョン)としてのスタンド

承太郎!悪霊と思っていたのは、おまえの生命エネルギーが作り出す パワーある像(ヴィジョン)なのじゃ!
そばに立つというところから、その像を名づけて「幽波紋(スタンド)」!
ジョジョの奇妙な冒険 13巻)


スタンド能力が初めて出てきた第3部冒頭においてジョセフがこう言っていたように「スタンド」とは人間の精神の像(ビジョン)であると説明されています。故に、その能力は本体である人間の性格・心の有り様を反映する―。まぁ時々はそこまで深い話にならないキャラや、そんなこと言ったらそれはどういう性格を反映してるの?というようなスタンド能力もありますが、まぁ概ねそう説明されています。


例えばフーゴのスタンド「パープル・ヘイズ」はあらゆるものを殺すウイルスを撒き散らす能力を持っていますが、それは「本体の凶暴さを具現化」しており、「自身にも制御することが出来ない」と語られるように、時たま何の脈絡も見境もなくぶち切れることがあるフーゴの性格を表している…本編ではこういう風に説明されているのですね。


今回登場するオリジナルキャラクター(追跡者チーム・麻薬チーム)のスタンド使いが持つ能力は、いずれも彼ら自身が体験してきたバックボーン・そこから作られた(ならざるを得なかった)性格に根ざしたものであり、場合によっては、ある意味で本編以上にスタンドバトルにおける「スゴ味」というものを演出していると言えるでしょう。


例えばフーゴと共に麻薬チームを追う少女、シーラ・Eのスタンド「ヴードゥー・チャイルド」、対する麻薬チームメンバーであるビットリオ・カタルディの「ドリー・ダガー」やヴラディミール・コカキの「レイニーデイ・ドリームアウェイ」といった面々…。いずれのスタンドもフーゴのもの同様、強い能力を持ちながらも非常に曲者揃い。同時に、ある部分や相手によっては長所となりながらも、場合によっちゃ弱点にも成りうる、というスタンドバトルが持っている醍醐味も、しっかりと描かれています。


フーゴの「パープル・ヘイズ」は本編では対イルーゾォ(マン・イン・ザ・ミラー)戦でしか活躍の機会がありませんでしたが、主人公たる今回の小説ではたっぷり(?)活躍している場面を見ることが出来るので、その辺りもまさにディ・モールト・ベネ。



・そんなわけで
冒頭にも書いたようにジョジョファンなら一読の価値は十分にありますが、5部のみならず、1部〜5部まで読んだ方ならそれこそ隅から隅まで楽しめる&頭の中で荒木絵が動き出す程の作りとなっています。文章のリズムやセリフ回し、ところどころのパロディ・小ネタまで、本当にジョジョ好きなんだなーと思わせる作品であります。


ちなみに「パープル・ヘイズ」の元ネタはご存知ジミヘンですが、その関係か、今回出てくるスタンドは全てジミ・ヘンドリックスの曲にちなんだものとなっています。



全然関係ないけどKronos QuartetのPurple Hazeはすげぇカッコいいのでオススメ。