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少年ノート2巻感想〜宇宙はどんどん膨らんでゆく、それ故みんなは不安である〜

少年ノート(2) (モーニングKC)

少年ノート(2) (モーニングKC)

1年生の入部を迎え、5月に入り、本格的に活動が始まった合唱部。10月に全国大会が行われるNコンに向け、自由曲「二十億光年の孤独」の練習にも熱が入る部長・別役だが、次第に生じる周りの部員との不協和、どうにもならない自分に対して次第に苛立ちを募らせる。様々な逡巡を重ねる中、市の合唱祭に挑むことになった彼ら河海東中合唱部は―。
というわけで、鎌谷悠希先生の少年ノート感想2巻の感想です。1巻の感想はこちらでござい。前回が主人公・ゆたかが合唱部に入っていくまでを描いていましたが、部活が本格始動した今回のメインは部長の別役君。今回も繊細かつ様々な「音」を感じさせる描写は健在!ネタバレありなので、「続きを読む」をどうぞ。


・部長としての思い/別役秋年としての思い

今回のキモは部長の別役にありますが、彼が率いる合唱部は前巻でも描写されているように、顧問の太田先生との軋轢を抱えています。たまに練習に顔を出してもあからさまにやる気のない態度。自らの力だけで大会出場を目指そうとする部員たち。そして誰よりもその状況に頑なでいるのが別役であるわけです。


部長として部活に対して熱心だし、指導の腕を高めるために自ら切磋琢磨している。しかし、上手くいっている特は問題がないように見えても、どうしたって次第に部員との間に溝が生まれてしまう。歌の解釈であったり、指導に納得がいかなかったり…。


で、その別役なのですが、一見聡明なように見えてかなりの混乱を内に宿しています。顧問との関係も勿論のこと、自分以外は音楽的に優秀な家族や「天才」とも称される才能をもった主人公・ゆたかに対するコンプレックス&見返してやりたいという感情が入り混じった思い。


で、具体的に誰を見返してやりたいのかと言えば、自分たちをバカにするような物言いをした顧問であったり、自らを「フツウ」の枠に押し込めるような物言いをする家族であったり。そのために別役は自ら合唱部の指導を行ない、自らの力で合唱部をNコン優勝に導くために色々と頑張っているわけですが、まぁぶっちゃけた話、彼以外の部員はそんなややこしい背景を知る由もありません。別役自身はなんとか自らの熱意を伝えようとしているものの、その背後にある葛藤を知らない部員との距離は広がるばかり。

結果的にかれらは

合唱じゃなくて 別役君の音を歌ってるみたい
私たち歌ってるのに 置いてけぼりってかんじだよね
ムカつくけどいてもらったほうがいいのかなあ 太田先生に力貸してもらおうよ

とまぁ、別役の思いを全否定するような言葉も出てしまうのです。勿論、本人達に悪気はないのだけどね。


・音楽家としての思い/教師としての思い

で、今回別役と対になる存在として描かれているのが、顧問の太田先生。
1巻の時点ではやる気皆無の鬱陶しい存在として描かれていたのですが、過去に生じた部員との決裂のエピソード、彼自身の背景にが明らかにされることによって、昨年の部長・副部長ら生徒との仲違いのみならず、実はかなりの重荷を背負っていたことが明かされますが、それ以上に太田先生自身がある意味で「敗れた者」であることが1つ大きな要素として存在しています。

某音大声楽家
で取った教員免許は社会科 要するに夢破れてここにいるんすよ


音楽やってたのは自分のためであってこどもに教えて楽しいモンじゃないんですよ
個人的に 癇癪のもとにされるなら尚更ね


ここには何よりも「音楽を演奏すること」と「指導者であること」の歴然たる差があります。
太田先生は確かに口は悪いものの、指導の腕は決して悪いものではありません。

苦手に感じる人は多いものの、「皆が皆嫌っていた」わけではない。むしろ、人望のあった当時の部長と副部長(別役)が反発していたから、他の生徒たちも煽られ、一緒になって反発していたという面もある…。


しかし、指導者の立場にある人間は、その不満や不協和を飲み込み、かつ、指導する相手を納得させ、導くことが求められます。それは勿論大変なことだし、その上、自らの技量がどれだけあったとしても、それを発揮出来るわけでもない。
生徒の反発に対し、太田先生はある意味で(自分の周囲の状況に余裕がなかったとしても)目を逸らしてしまった。同時に別役は、自らに対するコンプレックスや過信が混ぜこぜなり、その忠告からやはり目を逸らしてしまった。そして今、別役もかつての太田先生のように、不満や不協和の渦の中で、孤独に苦しんでいる。


・別役の決意と、向きあうこと。

別役は自らの指導によってだけで、合唱部を導こうとしましたが、彼は決してそんなことが出来る程の才能を持っているわけではありません。その能力・才能を示すことで自らの「可能性」としようとしたものの、やはりどうにも現実は厳しい。しかし、彼には人目を引くような才能はなくとも、「フツー」のポジションの中に、「皆で歌う」という状況の中でこそ活かされる大きな持ち味があることを、他ならぬ太田先生は気づいている。
同時に別役の頑なさは、視点を変えれば・他の生徒から見ればとてつもなく些細なことであるということも突きつけられます。

あのさあ
部長は結局どうしたいんすか?
なにを詰まってるんすか


頑固に自らの力だけでなんとかしようとする別役に対し、「先生のやり方で上手くなるならやってみりゃいい」と気兼ねなく言ってしまう1年男子。その一言に大きなショックを受けるものの、そこで初めて彼の視界は変化します。なんでそんなに頑なになっていたのか。一体自分はどうしたいのか。そして彼は「合唱部の一員として」どうするべきなのか。ようやくそこに向きあうことになります。


合唱祭本番での別役の決心、迷いのない表情、そしてそこから紡ぎだされる彼らの音楽。向かう先は容易な道ではないし、色々と困難もあるだろうけど、きっと彼らはもっともっと前に進んでいくのでしょう。最後の別役の表情はなんとも言えずグッとくるものがあります。


帯にも「合唱群像」とあるように、今回は別役くんにスポットが当てられていましたが、主役のゆたかの周囲も徐々に動きはじめているのが見受けられます。
大橋先生に誘われたオペラも公演に向けて徐々に練習を開始し、遙か遠いモスクワの地で活躍する「もう1人の天才ボーイソプラノ」であるウラジミールとの邂逅の予感。同時に、何とも不穏さを感じさせるラストの描写が印象的。

宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
谷川俊太郎・二十億光年の孤独)

世界の風景が変わり、時が経ち、ゆたかは果たして何と出会うのか。
舞台はやがて、夏を迎える―。

というわけで、3巻には一体どんなことが起こるのか!?ホントに楽しみです。