犬の帰宅

マンガとか料理とか音楽とかマンガとか

ジョジョリオン1巻感想〜新たなる杜王町、新たなる世界〜

ジョジョリオン 1 (ジャンプコミックス)

ジョジョリオン 1 (ジャンプコミックス)

2011年、日本、S市紅葉区「杜王町」。
3月11日の大震災を経た「現在」。
地震津波の被害による過酷な被害と変化を強いられている町には、震災以降、海から来る何かを守るかのように海岸線に沿って隆起した「壁の目」と呼ばれる正体不明の断層(?)が出現した。
杜王町に住む少女「広瀬康穂」はある日、「壁の目」の土の中から出てきた1人の少年と出会う。記憶も、名前も、服も、何もかも失ったその男。
彼の正体を探る康穂は不可思議な現象に巻き込まれていく…!


というわけで、荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険第8部、「ジョジョリオン」1巻感想です。
前作「SBR」から間を置かずに開始された舞台はS市杜王町!否が応でも第4部との関連性を考えてしまいがちですが、作者コメント曰く「それとはまったくリンクしておりません」とのこと。おそらく前作のキャラとかは出てこないのかなー。でも荒木先生だからなー分からんなー。という感じwwとはいえ、この作品もやはり「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズであることには変わらず。大きな意味で様々な関連性、あるいは相違点なりは見いだせるのかなと思います。
第1巻は冒頭にも書いたように、ヒロイン広瀬康穂と主人公である謎の男との出会いが描かれます。そして、彼の正体を探る中で「名前」の手掛かりをつかんだ2人は、記憶がある時に住んでいたと見られるマンションに向かうが…というのがおおまかなお話。詳しい内容は単行本を読んで頂くとして、ちょいとここでは1巻を読んで気づいたことを書いてみようかと。



・これは「呪い」を解く物語

と、1話冒頭で康穂が言っております。「呪い」です。「呪い」とは何か?

ある人に言わせると
自分の知らない遠い先祖の犯した罪から続く「穢れ」と説明する

「親の因果が子に報い」ってヤツですね。

直接的に似たようなことを、荒木先生は「岸辺露伴ルーブルへ行く」においても書いています。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)

マンガ家岸辺露伴が、10代の時に出会った女性から聞いた「謎の絵」。10年後にその話を思い出し、ルーブル美術館へと飛んだ露伴は、美術館の地下螺旋階段にて「謎の絵」から襲われます。

「先祖」の罪を利用して攻撃してくるッ!
血の繋がりから逃れられるものはいないッ!

人の心の中に記憶を見せて攻撃をする
まちがいなく「体」に刻み込まれている祖先の罪を見せて…
それは祖先が戦争で犯した「記憶」かもしれない(中略)「後悔」なのかもしれない…


ここで色濃く見られるのは、先祖なり昔の人が犯した行いは、「現在」においても何らかの影響を及ぼす、ということ。
考えてみれば、そもそも「ジョジョの奇妙な冒険」という物語自体が、連綿と続くジョースター家の戦いの歴史。死闘の果てに打ち倒したはずのディオ・ブランドーは、100年の時を経て蘇り、ようやくエジプトで打ち倒した。と思ったら、ディオの行いはその後の未来にも大きな影響を及ぼしていく…。「受け継がれる運命!」とはいうものの、受け継ぐ方としちゃたまったんもんじゃないよなーとも言えます。ジョースター家の連中は皆前向きですが、その運命を別の視点から見てみれば、それはある意味で「呪い」に近いものかも分かりません。

あるいは―坂上田村麻呂が行った蝦夷征伐から続いている「恨み」と説明するものもいる。

坂上田村麻呂征夷大将軍となって北方の蝦夷を討伐したのが西暦801年。杜王町のモデルとなっている現実の仙台市には、ちょいちょい縁の史跡もあるようですね。「呪い」と縁深いのは阿弖流為とかでしょうか。田村麻呂は蝦夷討伐の中で彼らの降伏勧告を受け入れ、調停に助命を申し出たものの、貴族の反対によって阿弖流為ら主導者は処刑されてしまう…。
とはいえ、何か呪いの類とかそういうもんはあったんでしょうか。とりあえずwikiを頼りに見てはいるけど、特にそうした記述は…うーん。

また 違う解釈だと
人類が誕生し物事の「白」と「黒」をはっきり区別した時にその間に生まれる「摩擦」と説明するものもいる

これまでの説明の中ではもっとも抽象的。「白」と「黒」、あるいは「正」と「邪」とか、「善」と「悪」でもなんでもいいですが、こうした二項対立は、必ずその間に曖昧な部分や割り切れない部分を残してしまうもの。
「悪には悪の救世主が必要なんだよ」とンドゥールも言っているように、「悪」もまた必要とするものは必ずいるわけで、つまりまぁどういうことなんですかね。
荒木先生的には一番最初の話というか、「男(便宜的に1巻では吉良吉影と名付けられた)」の過去が関係するのか。もっと言えば彼の先祖が関係するのか。もっと言えば杜王町の過去にまで繋がるのか…。その真相は今後明らかにされゆくのでしょう。きっと。

だが とにかく いずれのことだが
「呪い」は解かれなくてはならない
さもなくば 「呪い」に負けてしまうか…


・「ジョジョ」的な絵と「杜王町」と

単行本コメントで荒木先生は「無関係」と言っておりますが、読めば分かる通り、今回のジョジョリオンには第4部に関連した事物や人物名が多く出てきます。ヒロイン「広瀬」康穂に横恋慕する男の名は「東方」常秀だし、主人公たる男の名は物語の途中で「吉良吉影」と判明します。こうした名前の流用?に関しては前作SBRから行われてきました。「ジャイロ」や「ジョースター」から、最後には「ザ・ワールド」まで出てきましたからね。


とはいえ、荒木先生はこれまでの作品のキャラや名称を単に流用しているのか?と言うと、そういうわけでは無いと思います。無論、ファンサービス的な面が無いとも言い切れませんが、自らの作品・技法に関して、非常に自覚的・あるいは批評的にやっていると見える節があるように思えます。
例えば、今回の主人公のスタンド「ソフト・アンド・ウェット」の能力は「何かを奪う」というもの(これも随分抽象的だけど…)。作中では相手から視力を奪ったり、床から摩擦を奪ったりしていますが、1巻の描写において印象深いシーンとして、「音」を奪っていることが多くあります。
かつて「吉良吉影」が住んでいたマンションを訪れた2人は、バスルームで謎の攻撃を受けますが、そこでのシーン。



ここで見られるように、「音」を奪われた画面には、荒木先生特有の「ドドドドド」とか「ドッギャァ ̄ ̄ ̄乙____ン!!」とか「メメタァ」みたいな謎擬音が見られません。いや、他のシーンを見れば無論多く(場合によっちゃパッと見で読めないようなものまで)見られますが、「ソフト・アンド・ウェット」を発動した途端、控えめに言ってもかなり異様な絵が出来ているわけです。少なくともここでは自らの「擬音」に対して、とても自覚的な描写をしていることが分かります。「ジョジョ」はその作風から意図的にパロディだったりオマージュをなされることが多いですが、どうも荒木先生はそうした「個性」を作中で意図的にコントロールしているのでは?と思わされます(の一方で話の流れで設定やら何やらをド忘れしたり、しれっと後付することもあるけどそれはそれとして)


ジョジョの奇妙な冒険をシリーズとして見ていると、ストーンオーシャン(もっと言えば5部ラストバトル)あたりから、かなり抽象的というか、超常的な描写が増えました。超能力をビジョンとして絵にする「スタンド」の描写だって、読みなれない人から見れば「???」ってなモンでしょうが、最近では輪を掛けて初見じゃ何が何だか分からない描写も増えています。もともと緊迫感を持って描かれていたバトルシーンにプラスして、他のマンガには見られない異様とも言える描写が増えており、今後「ジョジョリオン」ではどんな風に描かれるのか…。


そういえば荒木先生は第4部を描くきっかけとして、これまでの「旅行・移動」ものから離れて「日常に住む」悪意を描きたかったとどこかで言っていましたが(うろ覚え)。そういう点から見ると北米大陸横断レース→杜王町という流れは必然なのかも知れません。しかし、荒木先生の技法は4部の頃から格段に進化・異形化しているわけで、今後どのように「杜王町」が、スタンドバトルが、物語が描かれるのか。毎月楽しみでなりません。


ちなみに今作主人公のスタンド「ソフト・アンド・ウェット」はプリンスのファーストアルバム「For You」の中の1曲。かつてはジョルノ・ジョバァーナの「ゴールドエクスペリエンス」もプリンスの曲でしたが、そうした点から見ると、やはり主人公にふさわしいスタンドなのかも知れません。やたらと応用が効きそうな点も似てますね。