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血潜り林檎と金魚鉢男感想〜湿気にまみれた悪夢のように〜

血潜り林檎と金魚鉢男(1) (電撃ジャパンコミックス)

血潜り林檎と金魚鉢男(1) (電撃ジャパンコミックス)

血潜り林檎と金魚鉢男(2) (電撃ジャパンコミックス)

血潜り林檎と金魚鉢男(2) (電撃ジャパンコミックス)

雨上がりの晴れた日の水場には気をつけなさい。
何処かで怪我をして、血でも流している時は特に…。


金魚鉢男がやってきて
首筋から生き血を吸って


あなたを金魚にしてしまうからね


というわけで、「血潜り林檎と金魚鉢男」のレビューです。
なんというか普通に面白いマンガでありながら、何とも掴みどころの分からない作品。単行本1巻の裏表紙を見ると、「ホラーテイスト冒険譚」と書いてあります。「ホラーテイスト」とはいえ、吹き飛ぶ生首とか溢れ出る内蔵みたいなグロい描写は無いのでホラーが苦手な方にもOK。「冒険譚」とはいえ、マジなのかギャグなのかイマイチ掴めないユルさもある…。そして全編に横溢する不可思議な描写は、まるで妙な夢を見ているかのよう。そんな物語です。


・それはマジなのかギャグなのか

主人公・昊介(こうすけ)がある朝出会ったのは、スク水+首から拳銃をぶら下げ、自販機に手を突っ込んで眠る少女。彼女は人を金魚に変えてしまう吸血鬼・金魚鉢男と戦い、金魚にされかかっている人を助ける「血潜り」であると名乗る。あまりのアレっぷりにドン引きしつつその場から離れた昊介であったが、その日、彼の妹は金魚にされてしまう。妹を元に戻す手がかりは朝に出会った少女の林檎のみ。その日から昊介は血潜りと金魚鉢男が繰り広げる死闘の渦に巻き込まれることになる…! というのが話しの大枠。


金魚鉢男とは何者なのか?それは正体不明にして神出鬼没。人を襲い、金魚にしてしまう人類最強最悪の敵。
血潜りとは何者なのか?それは吸血被害者の血に潜り、人を金魚から「すくう」仕事を生業にする少女(?)たち。

当たり前の話ですが、「ある日突然襲われ金魚に変えられてしまう」なんてのは、たまったもんじゃありません。そして金魚になった人間が、元に戻れるかどうかはまったく分からない。当人は勿論のこと、愛する家族を金魚にされ、残された家族の悲しみはいかばかりか。あまりにも謎が多く、あまりにも不可解過ぎる存在と人類の一進一退を描く本作ですが、その攻防はまさにスリリング!



…なんだけど、余りにも、マジなのかギャグなのか良く分からない描写があるのも一方でまた事実。
血潜りは吸血された被害者の身体に入り込み、人間の魂を吸い尽くす金魚と戦うわけですが、彼女たちは「すくう」んですよ。金魚を。金魚すくいで。



いやまぁ戦いそのものは非常に迫真というか、まさしく人類VS金魚!という形で中々にバイオレンス&手に汗握る描写。でも、あろうことか必殺道具が「ポイ」。金魚すくいに使うアレですね。中が紙で出来ている金魚すくいのアレ。対金魚の補助道具には他にも色々あるのですが、全ての道具は全部スク水から出てくるという仕様。マジなのかギャグなのか何なのか。スク水から道具を出す仕草はちょっとグッとくるけどね。



・不可思議にして幻惑的な描写

そんなマジなんだか緩いんだかよく分からん雰囲気に包まれた作品ですが、そんなムードをより加速させるのが、画面にしばしば描かれる不可思議な描き込み。




水が枯れたプールサイドに置かれたデッキ・チェアと自販機は林檎の先輩・苺の住処(?)。廃線に放置された電車の中にあるのは血潜りの試験場。特に話の本筋に関わるとか重大な伏線ってことは無いけれども、とにかく色々と不可思議な描写が溢れています。リアリズムではない、絵だからこそ出来る描写というのはマンガの強みではありますが、ここまで自然に自然な描写が描かれているマンガもそうそう無いのでは。マジなのかギャグなのかよく分からないバトルと相まって、まさに夢を見ているかのような気分。


「水」に関する描写が多いせいか、どことなく湿気を漂わせている感じも気になります。上記のプールサイドは勿論、公衆トイレや大雨の団地や路地、2巻ラストのスイカ畑の村の描写はまさに圧巻。雑草の草いきれや、べたつくような不快感など、湿気と肌寒さを感じさせる描写は単なる「ホラーテイスト」の道具立てを超え、作品に根付いた、切っても切り離せない一部として味わわせてくれます。


・正体不明VS正体不明

金魚鉢男とは何者なのか?それは正体不明にして神出鬼没。人を襲い、金魚にしてしまう人類最強最悪の敵。
なのですが、そもそも金魚鉢男は何を考えているのか、何を目論んでいるのかについては、作中では皆目描かれていません。
血潜りとは何者なのか?それは吸血被害者の血に潜り、人を金魚から「すくう」仕事を生業にする少女(?)たち。
なのですが、そもそも血潜りとはいかなる技能集団なのか、何故金魚鉢男と戦っているのかついては、作中ではほとんど描かれていません。


主人公である昊介は血潜りに協力する立場として戦っているわけですが、よくよく考えるとどちらも正体不明感がバリバリ溢れている。金魚鉢男が徹頭徹尾謎の存在だとすれば、血潜りの方は情報が出るたびに「?」感が増してくる。分かっているのは免許制らしいということと、血潜りOGがいることと、血潜りに「なれなかった」存在がいるということ。
この先の物語がどのようになっていくのかはまったく読めませんが、ヌメっとした湿気と妙にキュートなキャラクター達の死闘は今後も見守りたいもの。
個人的には林檎の頼り甲斐のある先輩にして、意外と役立たずかつゲスな性根な(良いところもあるよ!)苺先輩を推して行きたいですね。今後活躍の機会はあるのか!?