犬の帰宅

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COMITIA108連続感想-落下声「cry for the moon」

コミティア108にもってくもの by 相模 on pixiv


真夜中の1時。合コンで酔いつぶれた里菜を迎えに来るよう、電話で呼び出しをくらった朔。「おもり」の役目なんて受けた覚えがない。こっちにだってやることがある。ふざけるな。

でも。

月の明るい夜。里菜をおぶって帰る道すがら。やがて里菜は目を覚ます…。


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COMITIA108の落下声の新刊「cry for the moon」のレビューです。

話自体はとってもシンプル。
酔った友人を迎えに行くという、ただそれだけの、短い時間の短い話。

それだけの話であるのですが、彼女たち2人のやるせなさ、どうしようもなさが、読む方にもヒリヒリと伝わる作品です。

好きな人=朔に振り向いて貰えない里菜と、どれだけ好意を寄せられても「揺らぐことはあってはならない」と、自分を縛る朔。お互いに好きではあるけれども、どうにも身動きが取れない2人のこんがらがった感情は更に縺れ、自分で自分を傷つけてしまう。

特に里菜は苦手な合コンで弱い酒に酔い潰れ、あわやお持ち帰りされそうになってしまう。それは、他の人などどうでもいいくらいに朔のことが好きなことへの自暴自棄な裏返し。

そうした里菜からの好意を朔自身もを分かっている。けれども、自分自身を「女だったから」と拒絶してしまう。いっそ台無しになってしまえばいいのかも知れないけれども、なんだかんだ「おもり」をしてしまう。
そんな朔の優しさは、好きだけれども「ズルい」。そんな2人の距離感が、切なくも非常にグッとくるのですね。


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この作品のそんな切なさを加速しているのが、あえて顔の表情を出さない描写にあるのかなと。
上のプレビュー5pのように、後ろからの描かれた姿。あるいは、手や腕や髪の毛で隠された表情。

無論、泣いたり怒ったりの表情1つ1つが「喜怒哀楽」に収まらない曖昧な部分を持っているのですが、読み手側、あるいは朔と里菜の互いから見えない顔の表情が、時に目や口元以上に感情を伝えてくるのです。
削るような輪郭線、月や街灯の光と夜の闇のコントラストと相まって、2人のどうしようもない辛さが、皮膚を通じて感じるような、そんな錯覚すら覚えてしまうかのよう。

ラストの独白に至るまで、2人の痛みや距離感は宙ぶらりんのまま続いていきます。ある意味どうしようもない2人とも言えるのかもしれない。
しかし、そんな弱さに対して、ズルいと分かっていても手を差し伸べる姿がとても愛おしい。

繊細な人物描写と大胆な背景や描写で、次は何を見せてくれるのか、とても楽しみです。