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このゆびとまれ感想 〜演じるは「子ども」!狙うは「天下」!〜

このゆびとまれ(1) (ニチブンコミックス)

このゆびとまれ(1) (ニチブンコミックス)

このゆびとまれ 2 (ニチブンコミックス)

このゆびとまれ 2 (ニチブンコミックス)

日夜荒波渦巻く芸能界。生き馬の目を抜く者の目を抜く世界に1人、果て無き荒野を渡り歩く女優がいた。

その名は恵那!藤江恵那!!今日本でもっとも忙しい、TVやCMで大忙しの大物子役(小学1年生)が、芸能界という名の伏魔殿を己の魅力1つでのし上がる様を描くこの作品。たまたま書店で見た2巻の表情に思わずつられて手にとってみたのですが、これがまたかなりグッとくるマンガでした。


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イマイチ気の利かない若手マネージャー・田代の目線をベースに、飛ぶ鳥を落とす勢いで芸能界の頂点へと上り詰める女優・恵那さんの活躍を眺めるこのマンガ。なんといってもこの作品のキモはそんな恵那が繰り広げる百面相にあります。


普段、ドラマやバラエティの場で「子役」が求められるものは、なんといっても「子どもらしさ」。邪気のない笑顔や、喜怒哀楽をハッキリと出した素直さ。無論、見た目の可愛らしさも欠かせない。そんな全てを兼ね備えているのが、このマンガの主人公たる藤江恵那。1巻の表紙のように、「子ども」としてパーフェクトにキュートな笑顔を見せるのみならず、素直な喜怒哀楽から感情を秘めた微妙な表情まで、幅広い演技を見せる小学1年生(!)です。


じゃあ常にパーフェクトな子役かといえば、それはまったく違うわけで。楽屋に戻りオフモードになった途端の変貌・そして笑顔の裏で見せるモノホンの喜怒哀楽こそがこの作品の真骨頂。三白眼で田代をこき使い、使えない共演者を罵りこき下ろすなどなど、小学1年生とは思えない表情のインパクトに一気に持って行かれます。


相手が誰であろうとも、常に自分に注目が集まるよう現場でしたたかに立ちまわる時の策士顔、大物芸能人からの人気を得るがために敢えて己を捨てた変顔、相手を陥れる時のゲス顔、時に感情をむき出しにした悔し顔などなど、キュートな子役の虚々実々を取り巻く様々な百面相を見ているだけでも、とても楽しい作品です。


人気を得るがためのその策士っぷり&八面六臂の活躍ぶりは、実際とどまるところを知りません。
ベテラン女優やグラドルや一発屋芸人等々に対して、子どもの無邪気さ(アピール)で現場の好感度を持っていき、スタジオや現場の空気を読み切り自分のものにする。大物芸能人からの好感だってお手の物。ライバル意識をぶつけてくる子役に対しても「格」の違いを魅せつける。
マネージャー田代の言を借りれば、まさに「恵那さん」。ちゃん付けなんて出来ません。


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じゃあ果たして恵那さんは、単に演技力があって立ち回りに長けたクソ生意気な子役なのかと言えば、決してそうではない。
「全宇宙で一番のトップ女優になる」という夢に向かって突き進むその姿勢は、とにかく気持ちいいくらいに全力で前向きです。


「子ども」であるということは、ある意味大人目線から甘く見られる部分があります。恵那さんはそれを時に巧妙に利用しつつも、「子ども」ということに対して甘えた態度を取る人やモノに対して非常に容赦がありません。
そんな甘えたような脚本やシチュエーション、あるいは、あえて「拙さ」を求められる「子役」という役割そのものに対して、恵那さんは唾を吐きつつも、全力で己の力を出し切るプライド・プロ根性を持っています。


例えば、イモムシのキグルミを着るという仕事に対する激昂ぶりに、思わずキャンセルを口にする田代に対して

「はぁ!?アホか! そんなことしたら私の株が下がっちゃうじゃん!」
「やるよ!! やってやろうじゃん!!」

と啖呵を切り、見事イモムシを演じてのける。


また、「子ども」ということで自身に対して微妙にハードルを下げ気味の現場の空気に対しても、

「何なのこの私に対する判定の甘さは!」
「私こういうよそ様扱いで変に気を使われるのって大嫌い!」

と、決して「子役」であることに甘んじることはありません。


「全宇宙で一番のトップ女優になる」といみじくも恵那さん本人が言っているように、彼女は「子役」ではなく「アイドル」でもなく、「女優」である。そうした誇りを持っているからこそ、時に見せるゲスい行動や立ち回りも、次第に一本筋の通ったものに見えてくるのです。
特に2巻では、事務所のゴリ押しで人気な一方、あまりにも弱気な女優と共演するエピソードがあるのですが、弱気でネガティブな彼女に対する恵那さんの一言は、まさに自身の誇りを体現したものと感じます。


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ドラマがヒットし、心の中でふんぞり返りつつも「ただのひとつのステップ」と言いのける恵那さんですが、芸能界は浮き沈みの激しい世界。恵那さんの立ち回りが果たしてどこまで通用するかは未知数です。


例えば、しばしば描かれる食えない人気俳優・松田とのエピソード。ドラマやバラエティで恵那さんと共演する彼は、登場人物の中で(マネージャーの田代を除いて)唯一、恵那さんの「演技」に気づいています。互いの力量を認め合う2人の静かな攻防はとても熱いものです。
しかし、恵那さんの「素」の姿を白日のもとに晒そうとする松田の行動のは、「子ども」であることを利用する恵那さんのベールを剥がそうとしているようにも感じられる。


演技力は確かなもので、周りの「子役」には敵なしとは言え、果たして彼女が成長した先はどうなのか。また、意図的に描かれない母親の姿や、「子役」としての先の不透明さなど、あっけらかんとしたコメディの裏に、うっすらと不穏さも匂わされるこの作品。


とはいえ、常に気合いと愛嬌であらゆる現場を乗り越える恵那さん。次はどんな快進撃を見せるのか、続きが非常に楽しみです。