犬の帰宅

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「月刊すてきな終活」~終わりの準備を生きるということ~

終活
人生の終わりを意識して生前の内に行う様々な「死ぬための準備」の総称・
お墓のこと・遺産のこと・心の整理など、その範囲は多岐にわたる。

就職浪人の大学生、妻に先立たれた老人、米寿のひいお婆ちゃん、仮釈放中の無期懲役囚、etc…。それぞれの人生の終わりを見据えた時、初めて実感する「終わり」のための準備。人生の中で手に入れたもの、手に入らなかったもの、やり遂げたこと、やるべきこと…これまでに想いを馳せ、これからの準備にあたふたしている内に、やがて1日は過ぎてゆく。
そんな16(+1)人の姿を描いたオムニバス作品集。

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小坂俊史先生「月刊すてきな終活」を読みました。
「中央モノローグ線」シリーズなど、オムニバス4コマ集も数多く描かれている小坂俊史先生ですが、今回のテーマは「終活」。冒頭にもあるように、「人生の終わり」を意識して生前の内に行う諸々の「準備」の総称です。
当然のように、本作でもテーマとして描かれているのは遺書、お墓、遺産分配、遺影の手配などなど、どれも非常に「死」の匂いが強いもの。また、「死」を目前にしている人たちが主人公となっているように、平均年齢は52歳と高め。勿論、10代~20代の登場人物が主人公の話もありますが、圧倒的に中年~老年男女の登場率が高い作品。
とはいえ、決して鬱々とならず、また、湿っぽくならずに描いているのがこの作品集です。

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「終わり(のための)活動」と書いて終活と読むように、それは自らの死を前にした準備。登場人物の多くはそんな準備を前にして、「どうすりゃいいんじゃい」とボヤきながらあたふたしています。自分が埋まる墓を買うため妻をあれこれ説得したり(2話)、妻に残す遺書をどう書いたらいいのかで悩んだり(4話)、一番の遺影を撮ることにこだわったり(8話)、果ては自らの葬儀のプロデュース計画を練ったり(13話)。
いざ決心して準備をしてみても、予想だにしないあれやこれやが出てきてとっ散らかってしまったり、周りからは真剣さ故に呆れられたり…。そんな「あたふた」を軽いユーモアを交えて描いている点に、作品としての明るさが表れています。

一方で、そんな「あたふた」は、紛れも無く「死」を間近にした焦燥から来ていることもまた事実。そしてその「あたふた」は終わりのための準備であることは間違いなくとも、その人自身が「今現在を生きている」ことの裏返しにも他なりません。

例えば6話の主人公・常子は、女手ひとつで会社経営に奔走した結果、人生が一段落ついた時には友人も親族もいないことに気付き、同じような境遇の人たちが集まって「共同墓」に入ることを選んだ「墓友」の交友関係を作ります。どこか似たような身の上の寄り集まりは気楽で楽しいけれど、男女が集まる場においては幾つになっても色んな感情が生まれがちなもの。
実際、常子も生涯独身の墓友の1人に対して「恋」が芽生えてしまいます。

それなのにやってしまった
ええ 恋しましたよ いい歳して恋ですよ
笑いたければ笑いなさいよ

せっかくできた初めての友達も
みんな一気に 邪魔者になってしまった
(P.38)

人生の残り少なさを共にする人間関係と、それでも「2人きりでいたい」という葛藤。死ぬための準備を行いながらも、どうしようもなく生き残りたいという欲求。自分の生も、心のどこかで願ってしまう他者の死も、逃れようのない苦しさにまみれたもの。

加トちゃんに憧れて若い女の子と知り合おうとするお爺ちゃん(8話)や、独り身になって始めて自分がやりたいことを模索しだしたお婆さん(11話)にしても、つつがなく死ぬための心の準備でありながらも、今現在の生活に対する不安や焦燥を収めたいという想いから出た行動です。それはハタから見れば滑稽で、ある種みっともないとも感じられるけど、当人は至ってマジだし、切実。

それを、コメディタッチで軽く描きつつも、あくまでクールだけれども、見下さない。描かれたキャラクターがマンガ的な軽さを持っていることは勿論なのですが、ツッコミを入れる当人以外の人たちがいるからこその、絶妙なバランスが取れているのです。

このマンガに出てくる登場人物の中には、常子の他にも「1人で生きている(生きてきた)」人も何人か出てきます。しかし、「死」を意識した時、どうあがいても1人ではいられなくなるという事実を突きつけられるのもまた事実。親や子どもといった家族であったり、周りの友人だったり、何らかの形で関わってくる人であり…。
死ぬ前の準備を行う主体は当の本人であるけれども、その準備は誰かのために「遺す」ものでもあります。その関係性こそが、単なる「自分の死」に収まることのない、周囲の人生・生活に影響を及ぼすということが、この作品を広がりあるものにしています。

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1つネタバレをすると、この作品において、それぞれの物語の主人公は誰も死ぬことはありません。あるものは「終活」を続け、またあるものは「終活」への意識を変えていきます。
ただ、誰もが変わらないのは物語の後も生き続けるということ。

遺言書は死後の面倒を全部紙キレになすりつけて
残りの人生を安心して謳歌していただくためのものです
(P.107)

オムニバス集でありますが、第1話と最終話の繋がり、そしてほんの少しだけ見られる各話との関連性もグー。
こちらのサイトにて第1話が立ち読みできます。