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「さよならガールフレンド」感想~小さな熱を頼りに歩け~

さよならガールフレンド (Feelコミックス FC SWING)

さよならガールフレンド (Feelコミックス FC SWING)

小さくて、退屈で、どんづまりの町に住む女子高生・滝本。
うわさ話しか話題のないクラスメイトと、この町を嫌う母親と、ただセックスばかりしたがる彼氏に囲まれた毎日。
閉塞感と無感動に蝕まれ、全てに嫌気が差してきた滝本の前に現れた、彼氏の浮気相手であるビッチ先輩。
息苦しく狭い町の中で淡々と始まる、先輩との奇妙で静かな交流。
やがて夏は冬になり、鬱陶しい緑の季節は雪に埋もれる…。

どうにもならない絶望的な鬱屈と、静かな前向きさに溢れた、6作の短篇集。

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高野雀先生「さよならガールフレンド」を読みました。
たまたま別の作品をCOMITIA109で購入し、こりゃ面白い作品を描く人だ!と思っていたら、イイ感じのタイミングで商業単行本が出るというので購入。
時にガラス片で刺されるような痛みを感じつつも、とても静かな前向きさを感じる作品集でした。

冒頭であらすじを紹介した表題作「さよならガールフレンド」を始め、どの作品の主人公も根底にどこか鬱屈したものを抱えています。
クソみたいな田舎という環境であったり、いつまでも若い気でいる彼氏であったり、否応なく変わっていく生活であったり、もしくは自分自身に対してだったり。
平たくザックリ言えば、自分という存在が自分の意を無視/ないがしろにしていく(自分対自分も含めた)人間関係に晒されています。
相手の意思と欲望だけを突きつけられ、自分の感情や意思はまったく考慮されることのない関係。誰だって怒りや悲しみを感じるのは勿論のこと。
でも、そんな状況に置かれ「続けた」時、そしてそこに抵抗する術も意思も奪い去られた時、人はどうしても無感情になってしまいます。

このままではわたしも緑に呑まれて
何も考えられなくなってしまう
(p.10「さよならガールフレンド」)

わたしには「女の子」の資格がない
だから愛されなくてもしょうがない
(p.145「まぼろしチアノーゼ」)

誰にも認められない。自分自身を好きになれない。それが延々と続く生活。そうした鬱屈は、何者にもなれない10代だけのモノじゃありません。
成人しようとも、あるいは男であろうと女であろうと、精神は傷つき、見えない血を流す。

こうした絶望的な状況をとても淡々と描いている点に、この作品の大きな特徴があります。喜怒哀楽の感情の描写は、決して大げさに顔に出ることはない*1。地の文での心情の語りはあれど、それはあまり言葉として発せられることはない。
苦しみがグルグルと自分の中で回り続ける状況。そのとてもクールな描き方が、作品の大きな魅力の1つとなっているように感じます。

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そして、そんな主人公たちをギリギリで踏みとどませるのも、また誰でもない、他者であるという事実がまた熱い。とはいえ、彼/彼女はそんな苦しみから「救おう」という意識の元、手を差し伸べてるわけじゃない。
そこにいるのは別にヒーロー/ヒロインではなく、その関係性をとてもざっくり言えば、「ガールフレンド」*2

例えば表題作「さよならガールフレンド」のビッチ先輩。生活態度も思考や考え方も、主人公である滝本とは正反対の人間で、2人は物語を通じて、特別親しい仲になっていくわけじゃない。たまに出会って、くっちゃべって、時々スクーターに乗って出掛けるだけ。
「面影サンセット」の安堂先輩、「わたしのニュータウン」のミリとユカの関係などなど、「あくまで友人」から「単なる顔見知り」レベルまでの人間関係が作中には描かれています。
あたかも最初に述べた「鬱屈さ」を主人公に感じさせるようなものとは対にになっているようにも見えますが、その間柄で行われることは、「ただ時々静かに会話をする」といったとてもささやかなもの。しかし、そのささやかさこそが、希望の寄る辺となっている。

主人公に対する彼女/彼らは、決して、主人公の生活に入り込んでは来ません。そして、そんな主人公らの絶望的な鬱屈を蹴散らすような存在ではありません。
けれども、適切な距離感を持ってクールに、しかし決して突き放さずに会話をする彼らは、どこかで薄っすらと通じあっている。友情なのか。恋かも知れない。ほんの僅かだけども描かれる描写が、とても暖かい。
主人公の鬱屈はカタルシスを持って解決されることはありません。けれども、視点を、場所を、心持ちを変えれば、なんとか歩いていけそう。そんな小さい覚悟と熱を感じさせる各作品のラストがグッとくるのです。


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こちらのサイトにて、単行本未収録の作品「あたらしいひふ」も載っているので、まずはこちらも。服を巡る4人の女性のオムニバスです。

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こちらはタイトルの元ネタ。初めて聞きましたがカッコいいっすね。

アナログフィッシュ(Analogfish) "Good bye Girlfriend" (Official ...

*1:逆に何も考えていない・考える気のないゲス男の表情が絶妙な苛立ちを誘うのですが…

*2:男もいるけどね